02 12月
立命館大学国際平和ミュージアム|第30回メディア資料研究会 平和教育研究センター「絵が語る戦争の傷痕ー坂本正直と戦争のトラウマー」
立命館大学国際平和ミュージアムの「WEB展示 寄贈資料紹介」にご紹介いただきました。担当の大月功雄様(立命館大学国際平和ミュージアム学芸員)が文章を書いてくださいました。
坂本正直「莫愁湖ー馬たちはみていた」──南京の記憶
本作品は、画家・坂本正直(1914-2011)の「クリークの月(戦争)」と題された連作の一つです。月光が湖面を美しく照らすなか、湖岸の暗がりには何か不穏なものが姿を現しています。そこには、人間の手や刀剣、脱ぎ捨てられた軍服、そしてこちらを見つめる青白い馬たちの姿を認めることができます。
坂本正直は、1937年(昭和12)より約3年半のあいだ日中戦争に従軍し、南京から長沙まで中国各地を転戦しました。坂本は戦地で初めて中国兵を殺害した夜のことを次のように回想しています。「南京には夕方着いて莫愁湖の近くに宿舎を定めました。あちこちに火災が見え、城壁の周りの堀を渡って多数の中国兵が逃げてくるのが見えました。……その晩、歩哨に立っていて、突然目の前に現れた中国人を撃ってしまうのです。それなのに歩哨を交替した後、平気で眠ったと思うのです。そのとき月が出ていたのですが、どのくらいの月だったかは分かりません。それが「クリークの月」です。弔いのような気持ちで描いています」。
坂本は「馬」たちの戦争体験を描き続けたことでも知られます。戦地に赴いたのは人間だけでなく、数多くの動物たちが大陸へと渡りました。馬たちは戦場で〈何を〉見たのか。坂本は、その夜の自分たち人間の非業を見つめる馬たちのまなざしを、戦後幾度となくカンヴァスに描き続けました。